「農薬蚊帳」配布反対キャンペーンにご賛同を
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JanJanニュースからの転載です。

マラリア予防用の蚊帳に殺虫農薬練り込みは危険だ

野澤眞次2008/09/14

住友化学がマラリア予防用に開発した農薬蚊帳を日本政府のODA(政府開発援助)により、国際協力機構(JICA)がアフリカで大量配布している。使用農薬には発癌性や子どもの脳機能への発達障害も疑われて危険だ。本来、蚊を寄せ付けないための蚊帳に農薬を練り込むなどまったく不要なことで、税金の無駄遣いではないか。

●はじめに
 朝日新聞出版の雑誌「AERA」(08年9月8日発売号) に「農薬中毒千人隠蔽疑惑」の見出しで、島根県出雲市内の農薬空中散布により児童・生徒らに多数の被害が出たことが報じられている。被害内容は頭痛、嘔吐、下痢、めまい、視野狭窄などだった。

 この空中散布は松くい虫防除のためで、住友化学製の有機リン剤スミパインMCが使われた。有機リン農薬は深刻な神経・精神障害を引き起こす恐れがあるため、EUでは空中散布を含め使用が禁止されている。しかし日本では、かなり以前から原液を2〜10倍に薄めた高濃度散布が行われており、乳幼児、若年層の心身障害が憂慮されていた――。

 以上がAERAに掲載された記事の趣旨である。記事に出てくる住友化学はマラリア予防用に開発した農薬蚊帳(かや)、商品名「オリセット」をアフリカで大量配布している。筆者が事務局長を務める国際NGO「西アフリカの人達を支援する会」(サパ)は配布に強く反対しており、それは出雲市での殺虫剤中毒事件とも関連がある。

●マラリア予防には普通蚊帳の普及を
サパは、子どもの死亡率が高いマラリアの予防に西アフリカで地元産の「普通蚊帳」を配布し成果を上げてきた。ところが、住友化学は蚊帳の糸に殺虫農薬「ペルメトリン」を練り込んだ農薬蚊帳「オリセット」を開発し、税金(ODA)を使ってアフリカで大規模生産を始めたので驚いている。更なる驚きは、この農薬蚊帳を国連機関のユニセフ、日本の国際協力機構(JICA)が、配布協力していることである。

サパがギニアで配布した農薬なしの普通蚊帳
 蚊帳は、かつては日本の夏の風物詩だったが、各家庭に網戸が普及したため、一部の地方で使われている以外は姿を消している。

 筆者は1970年頃から熱帯地区の約30ヵ国と関わるようなって蚊帳との縁は現在まで約40年間続いているが、まだ一度もマラリアにはかかっていない。蚊帳の効果は絶大である。もちろん、これは無農薬蚊帳である。

 サパが実施した普通蚊帳使用と蚊帳無しの各農家でのマラリア罹患状況を下の表に示す。この調査はギニアで0歳〜5歳児を対象として実施された。各村を便宜的にA、Bの2グループに分けた。蚊帳使用で*2人を罹患としているが、これは発熱していたためであり、マラリアにかかったのかどうかは確認がとれていない。

 元来蚊帳には蚊を入れない機能が備わっている。わざわざ蚊帳に農薬を使用することは、住宅に設置されている網戸に農薬を塗ることに等しい。愚かなことで、税金の無駄遣いとなる。農薬代に充てるお金があるなら普通蚊帳の数量増に繋げた方が、マラリア予防にはずっと貢献することは明らかである。
 サパは「農薬蚊帳と普通蚊帳の違いはどこにあるのか」問うているが、明快な答えはない。住友化学は「マラリアの危険を考えれば、蚊帳に練りこまれた農薬の害は取るに足らない」と言わんばかりの説明をしている。飛来したハマダラ蚊が農薬蚊帳に止まれば直ちに死ぬとの効能を謳っているが、農薬蚊帳で駆除できる蚊など全体の発生数と比べれば僅かな数で、普通蚊帳との違いは全くない。

●子どもの脳の発達障害をもたらす恐れも
 住友化学の農薬蚊帳に使用されている殺虫剤ペルメトリンについては、WHOの国際ガン研究機構で発表された発癌性が疑われている。新たに富山大学大学院医学薬学研究部の津田正明教授が神経活動依存性の遺伝子発現がペルメトリンなどの合成ピレスロイドやDDTなどで阻害されると発表※。更に「子どもの脳に発達障害の恐れあり」と東京都神経科学総合研究所の黒田洋一郎客員研究員が指摘している。
※アメリカの薬理学雑誌 J. Pharmacol. Exp. Perspect,m 108, 611(2000)

 黒田研究員は、最近、子どもたちに見られる異常行動、自閉症、注意欠陥多動性障害等は、家庭でよく使われる殺虫剤のペルメトリン等が、子どもの脳の機能の発達に影響を与えているとの可能性を無視できなくなってきたと述べている(「科学」73巻11号)。

神経活動依存性の脳栄養因子遺伝子発現に対するペルメトリン、その他の化学物質の複合効果

●農薬蚊帳ではマラリアを撲滅できない
 マラリアは、ハマダラ蚊を媒介してマラリア原虫が人体内に入り罹患する病気で、アフリカを中心に年間約200万人の子どもが犠牲になっている。国連WHOは、ハマダラ蚊を殺虫剤で駆除すればその地区のマラリアは消滅するとし、過去殺虫剤の大量撒布を行った例があったが、その後他所からの飛来蚊と殺虫剤にたいする耐性蚊が現れ駆除は失敗に終わった。

 その後、殺虫剤液(ペルメトリン)に浸漬した蚊帳が出回ったが、同じく耐性蚊が現れ目的は未達成となった。いたちごっこの繰り返しである。現在大量配布をおこなっている農薬蚊帳「オリセット」でも同じ結果が予測される。

 更に問題となったのは、ペルメトリンの浸漬残液が川に流れ多量の魚類が死滅したことである。ペルメトリンの魚毒性が他の農薬に比べ極めて高いことが立証された。耐性蚊と魚毒性でペルメトリンの取り巻く環境は厳しい。

●耐性蚊問題のない普通蚊帳の普及必要
 住友化学がアフリカで推進している農薬蚊帳の配布について、サパは当初より上記のように反対のキャンペーンを展開している。反対しているのは蚊帳そのものでなく、蚊帳の糸に練りこんだ不必要な農薬の薬害と税金の無駄遣いである。

 筆者はかつて企業の農業専門家として東南アジアに滞在していたことがある。そこで日本の農薬メーカーが途上国の農民に農薬の危険性をほとんど知らせず、営利中心の対応をして多数の農薬被害者を出していることを知った。

 当時の東南アジアは今のアフリカと類似しており、一般農民は農薬の基礎知識は皆無で農薬に接するのも稀な生活をしていた。殺虫剤である有機リン農薬の撒布飛沫を度々浴びた子ども達は、神経系の障害被害をうけ長年苦しむことになった。
 
 いま、住友化学製の農薬蚊帳オリセットを配布されたアフリカの農家では、蚊帳に練りこまれた農薬ペルメトリンに関する知識は全くない。夜間、蚊帳の中で過ごす裸の子どもたちが蚊帳の裾に体を巻きつけたり、中には裾を口に入れてしゃぶることが予想される。

 我われサパのスタッフは、西アフリカで配布した普通蚊帳の使用農家を実際に確認して回っている。筆者が夜間訪れた折、上記のような光景に度々出会った。裸の子どもたちが毎日8〜10時間、約5、6ヵ月間の長期にわたり農薬蚊帳のペルメトリンに暴露され続けている実態を、住友化学は認識しているのであろうか。

 住友化学がアフリカでやっていることは、40年前の東南アジアであったことと同じ構造ではないか。過去の東南アジアと同じ感覚で農薬蚊帳の大量配布をするのでは、大きな事故発生を招く恐れがある。農薬メーカーには過去の薬害の歴史に学ぶ謙虚さが求められる。

 冒頭に紹介した出雲市の子供たちの農薬被害と重ね合わせ、ODA資金から農薬代を削除し、普通蚊帳の普及を推進するよう日本政府に求めたい。
◇ ◇ ◇
関連記事: 蚊帳に農薬はいらない 2006/10/19
関連サイト: サパ=西アフリカの人達を支援する会




特定非営利活動法人
サパ=西アフリカの人達を支援する会
農薬蚊帳とは(商品名オリセット)
 住友化学(株)が開発したODA関連物資で、途上国のマラリア予防に効果があるとしている。住友化学は、同社が生産している農薬「ペルメトリン」(ピレスロイド系)を蚊帳の糸に練り込むことで蚊の蚊帳への侵入を阻止できるとしている。即ち、蚊が蚊帳の網目から侵入しようとして蚊帳に接触することで糸に練りこんだ農薬が働き致死させると説明している。
同社は、東アフリカのタンザニア国に農薬蚊帳の生産工場を建設、100万張の単位で生産しアフリカ全土を対象に配布を行う計画とのことである。既に工場は稼動しており10万単位の蚊帳の配布が始まっている。
これらの蚊帳の利用者は無償で受け取ることになっており、蚊帳の生産から利用者に届くまでの諸経費の大半はODA資金で賄われる。他に国連関連団体のWHO、ユニセフ等で配布支援を行っている。1張のコストは、蚊帳のサイズ及び、為替レートにより異なるも2005年10月時点で約700円とされている。

サパが農薬蚊帳の配布に反対する理由について
サパは、1998年より活動地である西アフリカのギニア共和国で「貧困解消」活動を実施し成果を上げている。具体的には熱帯林の再生植林、焼畑土壌の活性化及び、風土病の予防を活動の三本柱としている。この中の風土病予防には、マラリアを採り上げ、地元産無農薬蚊帳の配布で罹患率を大幅に下げている。
この農薬蚊帳の配布反対には大きく二つの下記理由がある。
=(1)=
この蚊帳に練り込まれている農薬「ペルメトリン」には、発がん性の恐れがあるむねアメリカの科学アカデミーが指摘している。蚊帳利用者の健康を阻害する可能性が極めて高いことを裏付けている。
農薬の危険性の論議の前に指摘したいのは「蚊帳に農薬が必要かどうか」である。蚊帳には元来蚊を内部に侵入させない機能が備わっているため、糸に農薬を練りこむ必要がないことは、サパのギニアでの活動が立証している。
=(2)=
サパは、ギニア産蚊帳を農民中心に配布しているが、1張り当たりのコストは約200円前後である。農薬蚊帳1張りに対し3倍以上の数量配布ができることになる。マラリアの予防に蚊帳は有効であるが、利用者の健康を阻害し、コストの嵩む農薬蚊帳は不要で且つ、税金の無駄使いと言わざるを得ない。







マラリア対策に農薬入りの蚊帳を普及させることの問題点


学校法人 アジア学院
理事長・校長 田坂 興亜

 マラリアは、アジア、アフリカをはじめ、世界各地で多くの命を奪っており、マラリア多発地帯の住民、特に妊婦や子供達をマラリアを媒介する蚊から守る対策を取ることは、緊急の課題である。日本政府がユニセフを通じてこうした面での国際協力を行うことは、積極的に推進されるべきことであろう。
 しかし、問題はその方法である。夕方から夜にかけて家の中で眠る人々を蚊から守る方法としては、確かに蚊帳が効果的である。数千万張のオーダーで現地での蚊帳の生産に資金・技術支援を行い、さらに蚊帳使用の必要性についての現地住民の理解を広めるための活動を行うことにより、年間一億人近い数の子供たち、大人をマラリヤから守ることが可能となる。しかし、なぜ殺虫剤入りの蚊帳の普及なのか?
 使用されている殺虫剤ペルメトリンは、「ピレスロイド系」といっても、天然の除虫菊成分であるピレスリンと決定的に違うのは、炭素−塩素(C-C1)結合を持つ人工的な合成化学物質である。分子内に炭素―塩素結合を持つ化合物は、有機塩素系化合物と呼ばれ、代表的な有機塩素系殺虫剤としては、DDTが良く知られている。DDTは第二次世界大戦以降マラリアを媒介する蚊の防除に威力を発揮してきたが、徐々にDDTに対して耐性を持つ蚊が現れ、また、「急性毒性」が低いということで、戦後進駐してきた米軍により、日本人の頭の上から直接降りかけられたこの殺虫剤は、食物連鎖を通じて濃縮され母乳をも汚染していることが後に判明し、日本政府は発がん性を示すDDT、BHC(現在HCHと呼ばれている)、動物実験で催奇性を示すディルドリン、アルドリン、エンドリンなどの有機塩素系殺虫剤を1971年登録抹消とした。1996年には、「奪われし未来」が出版されて、DDTなどに子宮内の胎児に対して内分泌撹乱作用(日本では、「環境ホルモン」と呼ばれている)を及ぼす性質が指摘された。
ペルメトリンは、現在も日本で認可され、広く使用されてはいるが、アメリカ科学アカデミーが1987年に公表した発がん性リスクの一覧表の中で、「C」(ヒトに対する発がんの可能性がある物質。動物実験で一定程度発がん性が認められているが、疫学データがない)に分類されており、この殺虫剤を乳幼児を含む子供たちが、その中で一日の三分の一近くを過ごす蚊帳に添加して用いることは、どう考えても望ましいことではない。この蚊帳には、「手に触れたときは、手を洗うように!」という注意書きがついているが、アフリカの現地で、蚊帳の中で夜を過ごす子供や妊婦が、出入りする時を含めて蚊帳に接触した際に手を洗うことなど全く考えられない非現実的なことである。
 蚊帳に接触した蚊を殺すことが目的であれば、有機塩素系化合物の構造を持つ、ペルメトリンのような合成ピレスロイドではなく、蚊帳の外の屋内の蚊を除虫菊で作った蚊取り線香防除することもできるはずである。
 殺虫剤を含まない普通の蚊帳を安価に大量生産してその普及を図ると共に、除虫菊の栽培を資金的、技術的に支援して、天然の殺虫成分を含む蚊取り線香の生産・普及を図ることこそが、日本政府の支出する同じ金額で、農薬入りの蚊帳を普及させる場合の5倍、10倍の子供達をマラリアから守ることになるのではないだろうか?日本政府(外務省)、UNICEFFのこのプロジェクトの責任者に、これからでも方針の転換を強く望むものである。



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