
「神と祈りの島」と呼ばれることもある沖縄では、本州ではほとんど知られていない神さまがたくさんいます。今でも人々の間で信仰されている沖縄の神さま。その謎を知ると沖縄独自の文化の秘密が見えてきます。
沖縄の国づくりをした神さま【アマミキヨ】
日本には古くから「国産み」という神話があり、そこでは日本の島々を作ったのは「イザナギ」と「イザナミ」の2神であるといわれています。イザナギとイザナミは夫婦の神様で、この2人の神さまによって日本の島々が生まれたといわれています。ところが沖縄では、イザナギとイザナミの国産み神話よりももっと有名な神様がいます。それが、沖縄の島々を作ったといわれている「アマミキヨ」です。
アマミキヨは女性の神様です。彼女は偉い神さまから沖縄に島を作るように命令を受け、沖縄本島を作ったといわれています。さらにアマミキヨは沖縄本島の中に9つの聖地を作り、神さまに通じる御嶽としました。
沖縄では神話の中でも女性の方が男性よりも強かった?
沖縄の島作りをしたといわれているアマミキヨは、シネリキヨと呼ばれる男性の神さまと結婚しています。日本神話のイザナギ・イザナミと同じように夫婦の神さまである所には共通点がありますが、決定的に違うのは「沖縄では神話の中でも女性の方が強い」という点です。
日本神話のイザナギ・イザナミの国産みでは、最初に生まれた子どもは不完全な状態で生まれてしまったため、神話の中では2人の子供としては認められていません。その理由が「夫婦の営みの時に相手を誘ったのが女性の方だったから」といいます。この部分から見ても、日本の神さまの中では女性よりも男性の方が地位は高いことがうかがえます。
ところが沖縄の場合は、この考え方が逆になります。アマミキヨとシネリキヨも結婚後に子供が生まれますが、なぜか沖縄の島作り伝説の中ではアマミキヨの名前しか出てきません。しかもアマミキヨが沖縄本島を作った後に置いたとされる9つの聖地には、かつては男子禁制の聖域とされ、女性のみが神さまに祈りをささげる聖域に足を踏み入れることを許されていました。
アマミキヨが作った聖地のうちの7つは今も聖域として人々に守られている
アマミキヨが国づくりと同時に作った聖域は全部で9つあったとされているのですが、現代に引き継がれているのはそのうちの7つです。最も有名なものは沖縄本島最高の聖域といわれている斎場御嶽(南城市)なのですが、琉球最高の聖域である久高島にもクボ―御嶽があります。
もちろん琉球国王の居城である首里城内にも首里真玉森御嶽(しゅいまだむいうたき)がありますし、沖縄本島最北端の国頭村辺戸にも安須森御嶽(あすうぃうたき)があります。いずれの場所も未だ沖縄の人々の信仰の重要な聖域といわれているため、一般の人々の立ち入りが制限されているのがほとんどです。
強力な魔除けのパワーを持つ神さま【豚】
沖縄の食文化に欠かすことが出来ない豚ですが、実は豚には強力な魔除けのパワーがあるといわれていて人々の間で欠かすことのできない存在でもありました。ただ沖縄の島作りを行ったアマミキヨが「人々の信仰の象徴である神さま」であるのに比べると、豚は「人間にとって身近な神様」といった感じです。
最近の沖縄の家ではめったに見ることがない豚小屋ですが、昔はどの家にも豚小屋がありました。しかも沖縄の豚小屋は便所と合体していて、沖縄の方言では「フール(またはウヮーフール)」と呼ばれていました。豚小屋兼便所といったところですが、用を足すスペースと豚小屋はきちんと分かれています。ですから「豚小屋の中で用を足す」ということではありません。
かつての沖縄の家は人々の住居スペースの中に豚が同居しているような感じだったのですが、これには豚を家畜として飼育する目的以外にも重要な意味がありました。実は沖縄で豚は「強力な魔除けのパワーを持っている凄い神さま」という位置づけにあります。中でも人に悪さをするマジムン(魔物)を追い払ってくれる神様でした。
葬式から帰ったら寝ている豚をたたき起こしてから家に入る
陽が落ちるとマジムンたちの活動が活発になると考えられている沖縄ですが、マジムンの中でも特に「死者」にまつわる穢れを好むマジムンは非常に恐れられていました。もしもそんなマジムンに憑りつかれてしまったら、あの世に引きずり込まれてしまうかもしれません。そのため葬式後は特に強力な魔除けのおまじないをしなければいけません。
葬式などの死者の穢れを一発で祓ってくれる強力なパワーを持っているのが、あの「豚の鳴き声」でした。そこで昔の沖縄の人は、葬式から帰ってきたらまっさきにフール(豚小屋)に行き、豚の鳴き声で汚れをはらってから家の中に入りました。
何しろかつての沖縄では葬式に行くと死者に憑りついたマジムンが後ろからついてくると考えられていましたから、祓いもせずに家の中に入ってしまうと葬式場からついてきたマジムンが勝手に家の中に入り込んでしまうことになります。つまり「不幸を連れてくる」ということです。お悔やみのためにわざわざお葬式に行っているのに、そのことが原因で自分が魂を取られてしまうということだけは絶対に避けなければいけませんよね?
だから昔は豚が寝ている時に葬式から帰ってきたとしても、必ず豚小屋に行き、眠っている豚をたたき起こして鳴かせてから家の中に入っていきました。当時の豚にしてみれば非常に迷惑な話かもしれませんが、沖縄では強力なパワーでマジムンたちを追い払ってくれる身近な神様という存在だったのですから、仕方のない事だったのかもしれませんね。