
沖縄は「鉄道なし県」。モノレールは通っているものの、那覇空港から周辺の一部区間のみしか運行していません。そんな沖縄に電車を通す構想があります。実現したら沖縄はどんなふうに変わるのでしょう?
戦前の沖縄には電車が通っていた
「沖縄には電車がない」が常識です。電車に変わる移動手段として一家に1台、いや大人になったら一人1台持つのが一般的です。
そんな沖縄には、かつて「軽便鉄道」と呼ばれる鉄道が走っていました。しかも鉄道網は沖縄本島全域にあったため、沖縄県民の足としても広く利用されていました。
ところが軽便鉄道の歴史は戦争によって終わりを告げます。激しい地上戦の舞台となった沖縄の戦後は、アメリカ軍の占領下におかれます。そのため沖縄の戦後復興計画はアメリカ軍主導の中で進められていきます。
本来であれば人々の生活の足である鉄道網の整備を最優先させるべきでした。ところがアメリカ軍は軍用車の移動ルートを確保するため、道路の整備を優先します。もちろんこれは県内各所に置かれた基地建設資材の運搬や基地間の移動のために使われるからでした。その一方で軽便鉄道は最後まで復旧されませんでした。
こうして戦後の沖縄は、電車なし県となり完璧な車社会へと突き進むことになります。
将来鉄道が開通したら那覇~名護間が1時間で移動できるようになる
現在、沖縄県では「沖縄鉄軌道構想」に取り組んでいます。2019年3月時点では『沖縄鉄軌道の構想段階における計画書』を策定し、内閣総理大臣や関係省庁等に対し沖縄鉄軌道の事業化に向けた取組に関する要請をし実施した段階です。
この計画書には「概略計画図」というものがあります。これによると、現在計画されている沖縄の電車構想では那覇から名護までを結ぶルートを作ろうとしていることが分かります。
ただこれは「構想段階」で示された概略計画図なので決定事項ではなく、あくまでも「大枠のルートを決めましょう」という段階。それでもこれまで那覇から名護を結ぶ公共交通機関が路線バスのみだった沖縄も、電車が通れば時間通りに目的地まで移動が出来るようになります。
ゆいレールですら高いのに運賃はどうなる?
現在那覇空港から首里城方面に向けて沖縄都市モノレール「ゆいレール」が運航しています。戦後は移動手段といえば車しかなかった沖縄において「電車(正しくはモノレールなのですが)」が通るということは、沖縄県民にとってみれば大ニュースだったわけです。
開業当時は多くの県民が初めての切符購入、改札口の通過、車とは違う窓からの景色を体験しようと押しかけました。ただし初乗り運賃が大人230円(※現在、人区間のみの利用の場合の運賃は大人150円)に設定されているゆいレールは、「高すぎる」という理由で沖縄県民にはあまり浸透していません。
こうした事例があるだけに「沖縄に電車が出来るかもしれない」と聞いた時、私自身は「どうせ観光客価格で運賃を設定するんでしょ?」と…。
私は沖縄移住組なので、学生時代は本土の高校・大学に通っていました。もちろん本土では電車通勤が一般的で、駅から学校までは駅周辺に設置されている駐輪場(もちろん月極契約)から自転車で通ったものです。電車の移動時間は平均約30分で、運賃は300円前後だった記憶があります。
もしも将来那覇~名護を結ぶ鉄道がとおれば、名護に住んでいても那覇市内の学校に通学することが出来るようになります。部活の大会なども電車を利用して移動することが出来るようになるので、わざわざマイクロバスで移動することもなくなるでしょう。
もちろん観光客だって、慣れない沖縄の道路で不安を抱えながらレンタカーで走るよりもよっぽど気楽に回ることが出来るようになります。
ただこれも「運賃」次第です。高すぎる運賃を払って電車を毎日利用するということは、正直言って厳しい…。誰でも気軽に電車を利用できる運賃に設定されれば、ゆいレール以上の県民利用者が見込めるはずです。
駅周辺に自転車置き場は絶対に必要
電車が本島を南北に結んだとしても、今のままでは問題があります。もともと電車がない沖縄では、自転車を利用する人の数が圧倒的に少ないです。でももしも車を使わなくても長距離の移動ができるようになったら、「車のない生活をしたい」という人が今以上に増えるはずです。そうなれば沖縄の自転車人口も一気に増えます。
ただ問題は駅周辺に駐輪場がほとんどないということです。今のモノレール駅周辺を見ても、自転車を置く駐輪場はありません。駐輪場をきちんと設置しなければ、駅周辺に無断で自転車を放置する人が増えます。もちろんこの状況がひどくなれば、違法駐車の取り締まりが厳しくなります。
そうなると自宅から駅まで車で送迎をするということが一般的になってしまい、結局駅周辺に慢性的な交通渋滞が新たに起こります。これではせっかく交通渋滞緩和を目的に電車を運行させても意味がありません。
「脱・車社会」を宣言するのであれば、駅周辺の環境整備もこれまでの沖縄の常識を見直し誰もが利用しやすい環境を作ることが課題となるはずです。
沖縄に電車が通るようになるとこれまでの沖縄社会が大きく変わる
いろいろな課題があるにしろ、沖縄に将来電車が走るようになればこれまでの沖縄の常識が大きく変わることになるはずです。
主婦や学生以外は自転車に乗ることがほとんどない沖縄県民の間でも、便利で省エネの自転車ブームが起こります。また時間にルーズといわれる県民気質も、常に定刻運行をする電車のおかげで「時間に合わせて行動する」ということが常識になってくるでしょう。
また車に乗らなくても通勤が出来るようになれば、飲酒運転も確実に減ります。エンドレスに続く沖縄の飲み会も、電車の終電時間に合わせて早めに切り上げるのが新常識になるかもしれません。
まだ計画段階の鉄道計画とはいえ、鉄道の導入によって将来の沖縄社会は今と大きく変わることは間違いなさそうです。